前回に引き続き、株式会社グルーヴノーツ代表取締役社長 最首英裕が、デジタルテクノロジーが企業、そして社会にもたらす価値について、テクノロジーとフィロソフィーの両面から紐解いていく。今回のテーマは『「City as a Service」構想がもたらす未来とは?』。真のデータドリブンな社会が実現するために、これからわれわれは何を考えて行動すべきなのだろうか。

個社別の課題と向き合うなかで見つけた新たな課題

株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕 アンプラグド インタビュー
株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕(さいしゅえいひろ)

いまあらゆる業界で商品の販売をゴールとするモノ売りから、体験をサービスとして継続的に提供する「アズ・ア・サービス(as a Service)」への転換が進んでいます。

われわれグルーヴノーツが提供する、量子コンピュータとAIのクラウドプラットフォーム「MAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)」も、ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)です。

これまでわれわれは、このMAGELLAN BLOCKSを通じて、顧客企業が持つデータを最大限に活用し、正確な未来の予測とそれに応じた経営資源の最適配置の実現に向け、お客さまの課題解決と向き合ってきました。

経営資源つまり人・モノ・作業の最適配置は、突き詰めると非常に複雑ですが事業運営に関わる根深い問題です。たとえば、この工場や倉庫には、どのようなスキルを持った従業員をどこにどれだけ配置すれば生産効率を最大化できるか、または、輸送・配送において、どのトラックでどのモノを何回どの道順で運べば物流効率を最大化できるかといった、多様な変数と複雑な計算をもって最大値・最小値を求める課題となります。

われわれはこの問題を量子アニーリングといわれる量子コンピューティング技術を駆使し瞬時に導くサービスを提供しています。それがMAGELLAN BLOCKSです。

サービス開始から4,000社以上のお客様にご利用いただいているMAGELLAN BLOCKSですが、一方で、テクノロジーに頼る限界も明らかになってきました。それは、解析したデータの周辺で何が起こっているかを知りたくても、データを持ち合わせがなければその術がないことです。

これまで、MAGELLAN BLOCKSの解析に用いるデータは、ユーザー企業自身が収集、蓄積したデータであるため、データの種類や量、質はユーザー企業に依存します。むろん企業の内部データであっても仮説検証の裏付けや経営判断の材料となりうる示唆を得ることは十分可能ですが、人を行動に駆り立てる要素は無数にあります。仮に商品別、時間別、購入者の年齢別の売上データが手元に揃っていたとしても、決済した瞬間の状況を「スナップショット」的に捉えているに過ぎないという事実は否定できません。

しかしもし仮に店舗を訪れる前と後の動きがわかるとすれば、消費者の一連の行動のなかから新たな発見を見出す可能性は十分にありえます。手間と予算と時間を費やして対象者にヒアリングしなくても、バイアスのかかっていないリアルな動きを示すデータが集められれば、日常の一瞬を切り取った「スナップショット」ではなく、連続性を持った「ストーリー」として、人々の行動を読み解くことが可能になるでしょう。

それを実現するのが、われわれが実現を目指して構築を進めている「City as a Service(シティ・アズ・ア・サービス)」構想です。プライバシーを守りながら街の状況をつぶさに把握するための情報プラットフォーム。それがCity as a Serviceのイメージです。

多様なデータを組み合わせ、隠れた社会課題をあぶり出す

では、City as a Serviceによってどのようなことが実現できるのでしょうか。順を追って説明していきましょう。

私は企業が抱える課題には大きく分けてふたつあると考えています。ひとつはその企業内で完結する固有の課題であり、もうひとつが社会課題と密接につながった課題です。

社会課題と密接につながった課題とは何かといえば、それは多くの人が望んでいるにもかかわらず、何らかの理由で実現を阻まれているような課題。最近でいえば「新型コロナウイルスの蔓延で人混みを避けながら、効率的に仕事がしたい」といった課題は、ひとつの典型といえるかも知れません。

あくまでも比較論に過ぎませんが、MAGELLAN BLOCKS が売上予測や人員の最適配置といった、目的意識が明確で顕在化している課題を解決することに特化したサービスだとすると、City as a Serviceは、より大きな視点で都市活動を捉え直すことによって、自社データを解析するだけでは見えなかった潜在的な社会課題をあぶり出し、議論の土台とするためのサービスといえます。

City as a Serviceは、まだ始まったばかりの取り組みですが、すでにわれわれの構想に賛同してくださる企業・団体は増え続けています。現時点で公表できるパートナーのなかには、国際的なクレジットカードブランドとして知られるJCB、また約154万人の人口を擁する関西有数の国際都市である神戸市も検証に踏み出しています。産官の垣根を越えたデータプラットフォームづくりはすでに動き出しているのです。

「個々のストーリー」から「大きなストーリー」を導き出すために

購買統計データ、人流データ、道路交通データ、鉄道運行データ、経済統計データ、気象データ、SNSデータ——。こうした多様なデータを組み合わせ解析することによって明らかになるのは、都市で暮らす生活者や外部から訪れる旅行者が、どのような経路を辿ってどこにいき、何を買ったかという一連の流れから浮かび上がってくる「個々のストーリー」です。

そんな個々のストーリーから、都市の傾向や構造を反映するより「大きなストーリー」を導き出すことによって、年齢層や性別、居住地とは異なる切り口から、都市を訪れる人々をクラスタリングすることが可能になります。人々の意志をもった目的を行動から解析することで、いま都市で何を起こっているかを知る手立てができれば、データに裏付けされた新たな気づき、仮説の獲得、より安定的で高精度な予測の実現が可能になるでしょう。

たとえばロイヤルカスタマーになりうる観光客や消費者の購買傾向が精緻に取れれば、店頭に置くべき商品の選定、いま都市に欠けている機能、理想的な都市レイアウトの発見へとつながるはずです。また、都市というのは概念単位であって、何かしらの活動が行われるコミュニティとして考えれば、町でも商圏エリアでも実現可能です。

われわれが目指すのは、テクノロジーを駆使して、多様化、複雑化する顧客ニーズを正しく理解し、精緻に未来を予測すること。ひとり一人がありのままの自分でいられる社会の実現です。City as a Serviceは、都市単位で社会課題を解決するヒントを見つけ出す試みです。

データを持つ企業や団体の協力を得てさらに多くのパートナーを獲得し、1日でも早くCity as a Serviceを実現させたいと考えています。

 


都市は機能空間ではなくサービス空間。スマートな街ではなく豊かな人間性にあふれた街のために――。VUCAの時代に生き抜くため、企業は「City as a Service(シティ・アズ・ア・サービス、CaaS)」を軸に、都市の営みを捉えてその特徴を活かしたサービスの創出を目指すべきだ。社会や都市空間を俯瞰してみると、企業活動のストーリーが見えてくる。 City as a Serviceは、街のビッグデータや、AI量子コンピュータなど先進技術が駆使され実現される。City as a Serviceの全貌と企業が注目すべき理由とは。株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕が語ります。
-- July 8, 2020 「DIGITAL Foresight 2020 Summer」日経クロステック/日経BP総研 イノベーションICTラボ主催 特別講演より

 


構成:武田敏則(グレタケ)