左:株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕 右:SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO 執行役常務 楢﨑浩一氏

国内損害保険事業を中心に国内生命保険事業や介護・ヘルスケア事業などを手掛けるSOMPOグループ。同社はいまデジタルテクノロジーを積極的に活用し旧来の保険会社から「安心・安全・健康のテーマパーク」へ生まれ変わろうとしています。その先導役を務めているのが、日米でITビジネスに携わった経験を持つグループCDOの楢﨑浩一氏です。楢﨑氏は伝統ある保険業界をデジタルの力でどのように変えようとしているのでしょうか。グルーヴノーツの代表取締役社長 最首が話を聞きました。

CDOとして畑違いの保険業界に飛び込んだ真意

最首 確か90年代の初めの頃だったと思います。アメリカから持ち込んだ予測型テレマーケティングシステムで、当時三菱商事にいらした楢﨑さんと仕事をしたのが出会いでしたね。

楢﨑氏(以下、敬称略) そうでしたね。私が三菱商事に入社したのは1981年で、最首さんにお会いしたのは、通信機器を扱う機械部門から情報産業部門へ異動し、ソフトウェアの買い付けを担当していた頃でした。

最首 当時から楢﨑さんは三菱商事のほかの方とは際立って違っていたのでとても印象に残っています。ソフトウェアをソフトウェアとして売るというよりも、あくまでもユーザーが抱える課題解決のための手段としてお仕事をされていた印象があったからです。商社って意外にありのままを売る人が多かったですからね。

楢﨑氏 当時から自分が売り込んだ製品でお客さまをハッピーにすることが仕事のモチベーションでしたから、最首さんにそういう印象を与えたのかもしれません。でも実際は、若い頃からラジオ製作やアマチュア無線、マイコンなどに凝りがちなテクノロジー大好き人間なんです。それなのにメーカーではなく商社に入ったのは、作り手になるよりもテクノロジーを使ってグローバルで大きいビジネスがしたかったからなんです。

SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO 執行役常務 楢﨑浩一(写真提供)

【プロフィール】1981年三菱商事入社。2000年米Lineoに移り、02年ACCESS入社。同社取締役、取締役副社長COOを歴任。12年IP Infusion, Inc. Chairman、14年UBIP 取締役CEO、15年Midokura Group 取締役President兼COOなど要職を務め、16年SOMPOホールディングスに執行役員として迎えられる。17年4月から現職。19年からはパランティア・テクノロジーズ・ジャパンCEOを兼務する。米MBA、CPA、ITストラテジスト、プロジェクトマネージャ、第1級陸上無線技術士、電気通信主任技術者、DeepLearning G検定など、数多くの資格を所持。

最首 そうだったんですね。

楢﨑氏 ええ。確かに新しいテクノロジーを自らの手で生み出すのも面白そうなんですが、私自身はどちらかというと、これまでなかった市場が生まれビジネスが立ち上がっていくほうが魅力的に思えたので三菱商事に入りました。

最首 当時、楢﨑さんが代理店交渉をするのを傍らで見ていて勉強になったのは、右手でアメリカのベンダー、左手で日本のエンドユーザーを捕まえながらビジネスを進めている姿勢でした。ニーズをつかんだ上でベンダーと話をするので説明にも迫力があって、心底スゴいなと。その印象はいまも変わりません。

楢﨑氏 たぶん、いまの話を私の部下が聞いたら、「この人、30年経ってもやっていることが変わらないんだな」というのでしょうね。実際変わっていませんから仕方ありませんが(笑)。

最首 楢﨑さんは三菱商事を出られてからSOMPOホールディングスに入られるまで、シリコンバレーで活躍されてきましたよね。そんな楢﨑さんからご覧になって、昨今のIT業界、とりわけ世の中に溢れているデジタルトランスフォーメーション(DX)についてはどう感じていますか。

楢﨑氏 おそらく最首さんにも同意いただけると思いますが、言葉だけが上滑りしている印象です。「AI」「IoT」「ビッグデータ」などにもいえることですが、あまりにも軽々しく使われ過ぎているし、もうとっくに崖に落ちているときに五里霧中感が否めない。もっとはっきりいえば「濫用」「不正使用」されているとすら感じます。何を持ってDXとするかは一人ひとり定義が異なっても構いませんが、なんら具体性がなくふわふわとした抽象概念に、巨額の資金が注ぎ込まれるのはどう考えても問題です。本質的な課題解決にフォーカスせず、見当違いの用途に浪費しているという意味では、かつての「ドットコムバブル」を彷彿とさせるものがあります。

最首 同感です。いつの時代もテクノロジーは「道具」に過ぎないはずなのに、言葉だけが一人歩きしてテクノロジーを導入すること自体が目的化している印象すらあります。例えるなら、夕食時にレストランに入ったら、シェフが延々とナイフとフォークの説明ばかりしていて、いっこうに料理が出てこないようなもの。「いやいや、そういう話じゃないでしょ」といいたくなります。

株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕、SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO 執行役常務 楢﨑浩一氏との対談|テクノロジーは道具

楢﨑氏 最首さんのおっしゃるとおり、そうした商売がまかり通っているわけですから、危険な状態だと思います。シリコンバレーを渡り歩いてきたからこそ、わかります。彼らこそ、テックありきではない。お客さまの抱える問題に向き合うことから始まります。

最首 そうですね。ところで楢﨑さんは、どうしてSOMPOホールディングスのCDO(Chief Digital Officer)になろうと思われたのでしょうか。畑違いの分野から楢﨑さんを招聘したこと自体に、御社の危機意識が表れているように思うのですが、いかがですか?

楢﨑氏 2015年の頭だったと思います。SOMPOホールディングス、グループCEOの櫻田と損保ジャパン、代表取締役社長の西澤に会いました。それぞれ別の日に会ったのですが、彼らは異口同音に「自分たちはデジタルについては素人だが、デジタルを身に付けて変わらなければ、保険業界はいずれGAFAのようなグローバル企業に破壊されてしまうのはわかる。われわれは保険会社を卒業して『安心・安全・健康のテーマパーク』を目指したい。ぜひCDOとして力を貸してほしい」といいました。堅い保険業界でトップを張るふたりが、口を揃えて「少々破壊しても、袋叩きにあっても構わないから保険ビジネスを変えたい」というのですからただ事ではありません。これは本気だなと感じ引き受けることにしました。

保険業界をデジタルの力でトランスフォームするために

最首 SOMPOホールディングスがCDOを新設しボードメンバーに加えたのは、日本企業ではまだ珍しかったように記憶しています。ご自身が役割を果たされる上で、大事にしようと思われたことはありますか。

楢﨑氏 古きものと決別する意思と行動ですね。本気で旧来型の組織体制を一変させようと思ったら、トップの後ろ盾が必要不可欠ですし、縦社会のなかでやるべきことをやろうと思えばCDO自身に権限がなければ務まりません。これらの条件をすべて満たしてもらっているからこそ、SOMPOホールディングスに入って思う存分振る舞えているのだと思います。

最首 なるほど。差し支えない範囲で構わないので具体例を聞かせてください。楢﨑さんはまず何から「壊し」始めたのでしょうか?

株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕、SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO 執行役常務 楢﨑浩一氏との対談|SOMPOのDX

楢﨑氏 一番ボリュームが大きい損害保険商品のあり方と売り方を「壊し」ました。これまで損害保険は、一部ネット販売を除けば、カーディーラーさんや修理工場さんなど、プロ代理店と呼ばれる方々を通じて販売するのが通例でした。一度加入していただければ、ほとんどのユーザーは毎年更新してくださるので、これほど楽な売り方はないわけです。でもそこに安住していたら未来はないと考え、スマホひとつで簡単に加入できる保険商品を作り、好きな時に自動車に乗って、その時だけ保険を加入できるように、保険のあり方を自由にしました。ネットを介して代理店の頭越しに商売をするわけですから、ビジネスモデルを「破壊」したといっても差し支えないと思います。

最首 それほどの大きな変化をやってのけられたのはなぜだと思われますか。

楢﨑氏 代理店ビジネスが完全になくなるわけではないにしろ、いずれ販売チャネルの比重がリアルからネットへ移るであろうことは、業界人でなくとも予想のつくことです。それなのに手を付けなかったのは、周囲からの反発を恐れて業界の先陣は切りたくはないと及び腰になっていたからに過ぎません。だからこそあえて壊しにいきました。他社に破壊されるくらいなら、覚悟を決めて自ら壊してしまった方が多くの学びが得られるからです。

最首 「LINEほけん」も画期的な試みでした。

楢﨑氏 あれは当時、業界内ですごく馬鹿にされたんですよ。LINEで100円、200円の損害保険を売って何になるんだと。でもふたを開けてみたらもの凄く大勢のお客さまが喜んで加入してくださいました。勝てば官軍といいますが、こうした成功の積み重ねでしか状況を変えられないのだと思いましたね。

真のDXは課題意識やイシューが起点となって始まるもの

最首 SOMPOホールディングスや損保ジャパンの方たちと話していて、気付いたことがあります。それは、事故やトラブルといった不測の事態が起きないようにするにはどうしたらよいかということを、すごく真剣に考えて取り組まれていることです。保険会社としては、保険金の支払いをできるだけ抑えるほうが会社としては儲かるわけですから、当然といえば当然なんですが、当事者になってみて感じることはありますか。

株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕 (写真はグルーヴノーツ本社にて)

楢﨑 私はこれまで、商社を振り出しにさまざまな商売に携わっていきました。そのなかで常に変わらなかったのは、商売の買い手と売り手の利益は必ず相反するという事実です。つまり自分が高く売れば相手が損をし、相手が高く売れば自分が損をすることが当たり前だったのですが、保険ビジネスには当てはまりませんでした。この世界は唯一と言っていいくらい、売り手と買い手の利益が共通しているんです。事故や病気、ケガがなければ保険会社も加入者もハッピーですからね。最首さんがおっしゃるとおり、だれかを不幸にしたり騙したりしなくてもいいのが保険ビジネスなんだと入ってみて改めて感じました。

最首 社風としてITやデータを重用されている印象もあります。その点についてはいかがでしょう?

楢﨑 そうですね。もともと保険という商品の特性上、事実や計算に基づく結果を重視する気風はあったのですが、デジタル戦略部ができて、検証を繰り返しながら精度を高めていくアジャイル開発手法や小さく試して効果を検証するPoC(Proof of Concept:概念実証)を頻繁に実施するようになってから、それが一気に加速した印象です。幸いなことにわれわれは「現場」を持っているので、解決すべき課題と解決のヒントになるデータには事欠きませんし、テクノロジーの進化で開発コストは目に見えて下がっています。ITやデータに基づいたサービスが多く生まれているのは、これはと思ったらまず試してみる文化が育まれているからだと思います。

最首 最近はいろいろな会社にデジタル戦略部門が新設されています。でもその多くはPoCや研究開発に終始して、実際のビジネスに対してどんな影響があるのかよく見えないことも少なくありません。SOMPOホールディングスは何が違うのでしょう?

楢﨑 たとえば「AI」ありき、「IoT」ありきで事を起こすのではなく、課題やイシューが起点になっているからだと思います。SOMPOホールディングスは、東京、シリコンバレー、イスラエルのテルアビブにデジタル戦略拠点を開設しているため、協業相手にも恵まれています。解決すべき課題と解決のための手段が身近にある環境が成果につながっているのかもしれません。

最首 なるほど。しかしそうはいっても、日本全体でいうと人口は減っていますし、台風などがもたらす災害の規模もどんどん大きくなっている印象です。これから乗り越えるべき課題もあるんじゃないかと思いますがどうですか? 

楢﨑 私自身は、ESGやSDGsという言葉が先行するのは必ずしも好きじゃないのですが、これらの観点が、われわれにとって大きな危機をはらんでいるのは間違いありません。とくに感染症の流行や気候変動が常態化すると、一番ダイレクトに影響を受けるのは保険会社です。ですから、こうした被害をできるだけ最小限に抑えられるようにしていきたいのですが、できることはまだ限られているのが現状です。

株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕、SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO 執行役常務 楢﨑浩一氏との対談|ESG・SDGs経営

最首 とはいえ、すでにデジタルテクノロジーでこうした課題を解決する試みは始めていらっしゃいますよね。

楢﨑 はい。こと新型コロナウイルスの関連で申し上げると、今年SOMPOホールディングスが出資したアメリカのデータ解析会社パランティア・テクノロジーズと、医療システムの崩壊を防ぐことができないか、サプライチェーンの最適化の面から試行錯誤を始めています。また、ワン・コンサーンというアメリカのスタートアップとは、建物だけでなく地域全体の災害リスクを低減するためにAIを活用できないか研究を進めているところです。

一極集中から分散型社会へ変わるために必要なもの

最首 私自身、感染症や災害から社会を守るためにも、健康で豊かな生活を送るためにも東京一極集中は解消すべきだと思っています。もし今回のコロナ禍を機に、首都圏から地方への人口移動が始まれば、国そのもののあり方が大きく変わるのではないかと感じています。楢﨑さんはこの状況をどのようにご覧になっていますか?

楢﨑 日本社会はこれまで、東京など大都市を中心とするハブ型社会でした。しかしこれからは分散化が進み、アメリカのようなメッシュ型社会に近づいていくのではないかと思っています。たとえば、これまで東京や大阪、名古屋、福岡などの大都市を介してつながっていた、鳥取と岩手のような地域が直接手を結び、その関係性のなかからビジネスが生まれるような社会です。日本がこうした社会に変化できれば、高齢化や過疎化といった地方が長年抱え続けている問題の解消につながるかもしれません。どこに住んでいても東京と同じような便利で効率的な生活が営めるなら、気候や住環境に優れた地方で暮らすことを選ぶ人は多いはずです。

最首 おっしゃるとおりだと思います。人が特定のエリアに密集するのはそのほうが効率的だからであって、もしほかのやり方で効率性が担保されかつ快適なのであれば、そちらを選ぶ人は多いでしょうね。

楢﨑 はい。日本ではスマートシティもスマートコミュニティも「箱物」と捉えられがちですが、私自身その本質は無形無体なOSのようなものだと思っています。いうなれば安心・安全・健康をもたらす機能が詰まった都市のためのOSを作りたい。重要なのは、目に見えないソフトウェアを作っていくことです。

株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕、SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO 執行役常務 楢﨑浩一氏との対談|都市OS

個人的にはWell Being(幸福)をもたらす環境OSという意味で「WellBOS(ウェルボス)」と呼んでいるのですが、デジタルの力でさまざまな機能を開発して、やがて全国にできるであろうスマートシティ、スマートコミュニティに「インストール」する。そうして、安全で豊かな社会を実現できないかと考えています。

最首 グルーヴノーツも、適切なテクノロジー活用によって「City as a Service(シティ・アズ・ア・サービス)」で都市機能の最適配置に取り組んでいるので、楢﨑さんの課題意識はよく理解できます。楢﨑さんのいわれるように、これから社会の分散化がさらに進むと遠隔地の人やもの、サービスを的確に組み合わせ、最適な手法やプロセスを見つけていく需要が増していくでしょう。問題はその組み合わせが無数にあるということ。分散型社会の到来を別の言葉で言い換えるなら、それは「組合せ最適化問題」を常に解き続けていかなければならない社会の到来ともいえるのではないかと感じています。

楢﨑 なるほど。だからこそ最首さんたちはAIと量子コンピュータに解決策を求めているわけですね。

最首 はい。時代の巡り合わせによる偶然といえばそれまでなのですが、こうしたテクノロジーが本当に社会的に必要とされるタイミングで浮上してくるというのは、個人的には面白い現象だと感じます。楢﨑さんはどう思われますか?

楢﨑 何かが社会の変化を捉えて、それまで眠っていた人類の暗黙知が揺り起こされたのかもしれませんね。本来人間の営みは気象現象と同じように複雑系に属するもの。それがあまり意識されてこなかったのは、人間を同じ時間、同じ場所、同じ空間に押し込めて管理していたからでしょう。それが今回のコロナ禍で壊れ、一過性の現象ではないことがわかってきたことで、あらゆる状態は絶えず変わり続けることを実感したような気がしてなりません。最首さんたちが取り組んでおられるAIと量子コンピュータの活用は、こうした複雑で常に変化するその瞬間の最善手を見つけていくのに有効であるのは間違いないと思います。

保険会社から、安心・安全・健康のテーマパークへ

株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕、SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO 執行役常務 楢﨑浩一氏との対談

最首 最善手を見つけるのに、生物の遺伝的な仕組みを利用する「遺伝的アルゴリズム」という手法があります。楢﨑さんのおっしゃるような人間の営みという複雑系をいち早く最適な方向に導くには、社会全体は遺伝的に発展する、つまりさまざまな試行錯誤の末により良いものが発見され進化を遂げていくものと考えてみること。そんなことが大切なのだろうと感じます。

楢﨑 個人の生き方や組織のルールがダイナミックに変わっていくわけですから、社会を動かす手法もアップデートしなければなりませんよね。

最首 ええ。そう考えていくと、何が正解なのかわからないから何もしないことが罪のようにすら思えてきます。楢﨑さんはいままさに、数多くの挑戦から多くのことを学ばれていると思いますが、これからどんな領域にチャレンジしていくおつもりですか?

楢﨑 いま一番心配しているのは日本の中小企業の先行きです。株高が進む一方で、実体経済は急速に冷え込んでおり回復する兆しが見えません。すでに中小企業の受難の時代が始まっているのではないかと危惧しています。幸いなことにSOMPOグループは業界のなかでも、地銀さんとの太いパイプを持っているので、ウィズコロナ時代を視野に、地域の産業振興につながるような取り組みに挑戦したいと考えています。

最首 楢﨑さんのお話しをうかがって、保険会社は単純に保険を売っていればいいというものではなく、日本全体、社会全体の構造を作用させていくことを前提に自社のビジネスを捉えていることがよくわかりました。冒頭にも触れたように、いま日本では本質を捉えていないDXがはびこっているなか、御社のように社会課題と向き合い、未来の可能性に投資する企業がもっと増えていけば、日本はもっと面白くなりそうだと感じています。

楢﨑 私からすれば、最首さんたちグルーヴノーツさんの仕事ぶりもとても魅力的に見えます。実は2021年4月からSOMPOホールディングスの新たな中期計画が始まるのですが、われわれにとって量子コンピュータは一部を除いてまだ活用が進んでいない未開拓な領域です。研究開発一辺倒でなく、企画から実装まで一貫して手掛けていらっしゃるグルーヴノーツさんのような企業は世界的にも稀な存在ですから、ぜひお力をお貸しいただければと思っています。

最首 そういっていただけて光栄です。ぜひご一緒したいと思います。では最後にCDOとしてこれから何を目指していかれるか、今後の抱負をお聞かせください。

楢﨑 はい。過去5年を振り返って見ると、私がやってきたことの多くは、旧来型の保険ビジネスをデジタルによって刷新していく取り組みでした。次の5年間では、これまでの社内から業界へと駒を進めます。やりたいことは、デジタルテクノロジーを駆使して保険とは直接関わりがない分野で新たなビジネスを立ち上げること。すでに始めている取り組みとしては、SOMPOオークスという小会社で進めている事故車の売買、委託販売を行うB2B向けのオークションビジネスの立ち上げ、また私が代表を兼務しているパランティア・テクノロジーズの日本法人パランティア・テクノロジーズ・ジャパンでも、データビジネスを進めていく予定です。

"社内から業界へ。新しい事業をつくっていく" 楢﨑氏(写真提供)

われわれにとって究極の目標は、かつて保険会社が提供してきたサービスを、これまでとは違った形で社会に実装し「SOMPOって保険会社だったらしいよ」といわれるくらいダイナミックなトランスフォームを成し遂げることにあります。これからの5年でひとりでも多くの方に「安心・安全・健康のテーマパーク」として認知されるよう、努力していきたいですね。

最首 われわれも、AIと量子コンピュータを使った課題解決に100件以上向き合っています。協力できる分野がたくさんありそうなので、これからの展開がとても楽しみです。

楢﨑 もはや1社ですべてを賄おうとする自前主義の時代ではありません。オープンイノベーションこそが時代を切り拓きます。グルーヴノーツさんをはじめ、優れた能力を持つ企業のみなさんと社会課題の解決を通じてビジネスを盛り上げていきたいと思っているので、ぜひご一緒させてください。

最首 承知しました。今後ともよろしくお願いいたします。

楢﨑 こちらこそよろしくお願いいたします。

<グルーヴノーツとSOMPOホールディングスとのかかわり>
SOMPOホールディングス傘下の損害保険ジャパンは、営業店、代理店に対して事業にまつわるさまざまな情報を提供しています。提供される情報は、事故・保険金の各種手続き、関連法規や税務、販売方法、規程・マニュアル、FAQ、その他のナレッジ情報など。年々増え続けるこうした膨大な文書のなかから、いかに的確かつ迅速に必要な情報を見つけ出すか。高度な能力を有する文書検索システムの導入が急務でした。そこで同社は、新文書検索システム「教えて!SOMPO」の開発にあたり、高度な自然言語処理技術を実装した「MAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)」の文書検索エンジンを採用。これにより、電話による照会は45%減、「教えて!SOMPO」内での解決は97%を超え、営業担当者が顧客に回答するまでの時間を大幅に短縮することができました。詳しくはこちら

構成:武田敏則(グレタケ)