左:イノベーション統括部 企画グループ 主事 村上恭之 氏
右:調査部 統括グループ次長 関祐二 氏

既存の産業にITを掛け合わせることで、新たなユーザー体験や価値を生み出そうとする動きを総称して「X-TECH(クロステック)」と呼ぶ事がある。広告とITとをかけ合わせた AdTech(アドテック)、医療とITとをかけ合わせる MedTech(メディテック)、農業の分野では AgriTech(アグリテック)といったように、様々な産業領域で新しい X-TECH の萌芽を見ることができる。そういった潮流の中、今最も大きな注目を集めているのは、やはり FinTech(金融 × IT)だろう。

金融とITの掛け合わせにより、今や紙幣は数値に姿を変え、ネットワークを通じて世界中に流通している。スマートフォンやNFCの進化により、現金を持たずとも、モバイル端末さえあれば、キャッシュレスでタクシーに乗り、食事をし、買い物を楽しむことができるし、会計前に現金の有無を心配したり、小銭で財布が膨らむストレスからも開放された。スマートフォンを皮切りに、急速に我々の生活に“馴染んだ” 新しい IT 技術によって、私達の決済体験は、従来の紙幣での支払から大きく進歩している。

日本発唯一の国際カードブランドである JCB もまた、そういった状況の中で、“決済” を次のステージに押し上げようとするメインプレイヤーの1つだ。

その狙いを実現させるべく、同社は2017年4月に「イノベーション統括部」を新設。 R&D の旗振り役として、全社横断的なイノベーションの推進をミッションとしている。今回のインタビューでは、次々と生まれる新たなテクノロジーを取り入れながら、次の一歩を踏み出そうとする同部門の、AI との向き合い方について話を聞いた。

新たなテクノロジーを取り込み、イノベーティブな組織へ。

「もともと、新しいテクノロジーに対しては、どこか保守的な姿勢が社内にはあった」と話すイノベーション統括部の村上氏は、前述の通り、同社の事業ドメインと密接に関わる新しいテクノロジー群の中から、実効性・将来性の見込める技術を選定し取り込み、業務の効率化・高度化および、新たなビジネスモデルの構築を目指すメンバーの1人だ。

同部門が組織されてから約1年という長くはない時間の中で、スタートアップ企業と共に革新的な新事業の共創を目指す「JCB Payment Lab」プログラムのオープンプラットフォーム化や、同プログラムから生まれた消費活動の “今” を知るためのサービス「JCB 消費 NOW」のメニュー充実、また、AI を用いた業務変革への取り組みを発表するなど、その数々の実績からも、テクノロジーに対する、あるいは変革に対する、同社の “本気” が伺える。

「新たなビジネスモデル・事業基盤の構築は中期目標としてあって、現状は、短期目標としての既存業務の効率化や高度化に向けて動いている」と話す村上氏。まずは、業務面での新しいテクノロジーの積極的な取り入れを常態化し、変化を厭わないイノベーティブな組織体を実現することで、新たなビジネモデルを生み出すための基礎を築こうとの狙いがあるようだ。

電卓を使ったほうが、正確でスピーディー。

同氏は、シンギュラリティなど、ネガティヴな印象を持って語られることのあるテクノロジー、 AI(機械学習)についても「計算スピードと正確性という意味では、人はすでに電卓には勝てない。だからといって人の仕事がなくなったかと言うとそうではない。ツールやテクノロジーをうまく使うことで、人は人にしかできない仕事で価値を創り出すことができる」と、積極的に活用を進める考えを示す。
確かに、同社が取り組む AI を活用した PoC も「人手を掛けることがもったいない(村上氏)」業務領域からスタートしている印象を受ける。

現在開発中だという 加盟店管理システム では、 AI の画像解析と文字認識機能を活用し、加盟店の WEB サイトを自動モニタリングする。法令や規約で取扱が禁止されている商品・サービスを取り扱う加盟店がないかを常時監視し、これによって禁止商材の販売行為に対して、迅速な対応が可能となる。これまでは、目視によるモニタリング体制をとっていたが、加盟店が持つすべての WEB ページを、人が“機械的に”監視するのは決して生産的とは言えない状況であったという。

また AI OCR を用いた業務効率化 では、これまで手書きの定型帳票(入会申込書など)の入力をする際、正確性担保のため2度のデータ入力を行い、最終的に目検による確認を実施するなど、多くの人手をかけていたが、AI OCR を用いることで、1度目のデータ入力を自動化し、効率化を目指す。入会申込書だけでなく、契約書や請求書など、非定型帳票にまでその範囲を広げ、実効性を検証中だという。

属人化したノウハウを AI が引き継ぐ。

先に挙げた2つの取組み例は、人がやらなくてもいいような単純作業を AI に置き換えるというものだが、逆に「この人でなければやり方がわからない」といったような、属人化してしまっている業務に AI を活用しようとする動きもある。

JCB は、ユーザーからの相談や質問に応えるため、東京を始めとする全国に複数のコールセンターを設置しており、中でも支払いに関する相談に特化したセンターを、調査部が運営している。「日や時期によってその入電数は変動するため、それに応じたオペレーターの配置計画をたてる必要がある」と信用管理本部 調査部 次長の関氏は言う。つまり、入電数を予め正確に予測できるか否かが、計画の実現性を大きく左右することになるのだが、現状その予測は「特定の従業員が担当しており、知識・ノウハウが属人化する傾向にある(関氏)」とつづける。個人の知見に頼る部分が多く、異動や退職の際のスムーズな引き継ぎが難しい。そういった課題を払しょくし、運用の安定化を実現すべく、この機能を AI で実現できないかを考えたという。

実際の予測には「データさえあれば、専門知識がなくとも、誰でも正確な予測が可能になる(関氏)」という点を評価し、(株)グルーヴノーツが提供する AI プラットフォームの「MAGELLAN BLOCKS」を利用。試用期間中に、ある拠点の2年分のデータを学習させたところ 99.8% の精度を獲得。現在別拠点への展開を計画中だという。

AI で、少しだけ先の未来が見えてくる。

まずはじめに取り掛かったテーマである業務の効率化のプロジェクトを通じて「AI の向き不向きや、その特性を体感的に理解できた」という村上氏は、その上で「その他の業務領域、特にマーケティングなどにも積極的に展開したい」と続ける。「たとえば、これまでのように、無作為に DM を送るのではなく、予めその情報を必要としているお客様をを予測し、情報を届けられるようになれば、DM は双方にとって有用なコミュニケーションとなる。その他にも、少し先の未来を予測できることで、お客様にとっても我々にとっても“心地よい”関係を築ける部分は多くある」と、意気込みを語った。

日々新しいテクノロジーが生まれ、ビジネス環境が大きく変化していく中で、同社の目指す“決済の次のステージ”で(安全・安心)で心地よい決済体験が訪れるのを楽しみにしたい。