NTTやGoogleを経て自ら起業を経験し、グルーヴノーツにジョインした山本圭。現在は、グルーヴノーツのプロダクト本部のリーダーとして、AIと量子コンピュータによる最適化ソリューション「MAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)」や、都市単位で人の活動を捉え可視化する新プロダクト「City as a Service(シティ・アズ・ア・サービス)」の開発に取り組んでいます。これまでNTTやGoogleなどで経験を積み、ビジネスやデータの活用と向き合ってきた山本が、自社をデータドリブンな組織に進化させるためのポイントを語ります。

株式会社グルーヴノーツ プロダクト本部長 山本圭
【プロフィール】1996年、早稲田大学理工学部電気工学科卒業後、NTTに入社。インターネット商用利用初期から商品ビジネス開発に従事する。総務省IPv6実証実験への参画などを経て、NTT米国子会社で仮想化技術、クラウドなどサービスの開発など、幅広い業務に従事。2014年、Googleに移り、立ち上げ期のGoogle Cloud Platform(GCP)の担当として、パートナーとともにデータ分析や機械学習領域を含んだ新たな幅広いビジネス開発を展開。GCPの普及に貢献する。Google退社後、データ関連ビジネスでの起業を経て、2020年にグルーヴノーツ入社。現在は「MAGELLAN BLOCKS」事業のプロダクト本部長として、プロダクト戦略開発やプロジェクトマネジメント、「City as a Service」等の新規事業開発、営業戦略の支援などを幅広く担当。データ・AIの活用などの案件の経験を多く持っている。

データは脇役。あくまでもビジネスに関わる人間が主役であるべき

世はデジタルトランスフォーメーション(DX)花盛り。検証可能な事実に基づいたデータドリブンな企業経営が当たり前になりつつあります。

実際、ここ数年でデータ基盤が急速に整いはじめ、活用が進んだという話をよく耳にします。みなさんの会社はどうでしょうか。なかには「メディアで伝えられているほどには、活用が進んでいない」と感じておられる方もいらっしゃるかも知れません。

事実、データに関するご相談に乗っていると「社内には大きな成果を挙げるだけのデータもないし、分析を得意とする人材もいない」といった声をよく聞きます。データ活用の必要性は十分理解しているつもりだが、周囲の理解が得られず予算も限られているというお悩みを打ち明けてくださる方も少なくありません。また逆に「AIでデータを分析すればかなりのことができると聞いた。手っ取り早く成果を出したい」という方も少なからずいらっしゃいます。

データ活用への期待感ゆえの言葉なのでしょう。しかしデータを、手に入れさえすれば勝手に育ってくれる「金のなる木」や、振れば振るだけ宝が出てくる「打ち出の小槌」のようなものだと思っているようなら考えものです。

成果を出すために、それなりの準備と時間が必要なのはデータ分析も同じ。方向性の定まらぬまま手当たり次第に集めたデータを集めて分析したところで、おそらく望むような答えは出てこないでしょう。

多くの方が誤解されていますが、データ分析をはじめるにあたってもっとも重要なのはデータの有無ではありません。どんな企業にも利用しがいのあるデータはあるものです。仮になかったとしたら、必要なデータを取得して蓄積するところからはじめればいいからです。人材も予算もあるに越したことはありませんが、データサイエンティストがいなければデータ分析はできないわけでもありません。むしろ、小規模なほうが小回りも利き、試行錯誤しやすいというメリットもあるほどです。

では、データ分析を企業の成果につなげるために、欠かせないものとは一体何でしょうか。

それは、データを使って特定の課題を解決したいという強い意志、長期的な展望に基づいて粘り強く環境を整えていく気力を持つ人の存在です。少なくともそれがあれば、データ活用に踏み出せます。

データ分析の主役はあくまでもビジネスを動かす人自身であり、データやデータ分析の専門家は脇役に過ぎません。目を向けなければいけないのは、ビジネスを動かす人が向き合っている顧客やユーザーなのです。

データ分析の主役はあくまでもビジネスを動かす人自身|データ分析で成果を挙げる

データの価値は、ビジネスに貢献することではじめて生まれる

データが持つ「価値」の捉え方についても大きな誤解があります。

データ活用に積極的で名を馳せている企業は、きっと何か特別なデータを持っているに違いないとお考えでしょうか?ある意味そうかもしれません。しかし、彼らがデータの価値を活かす努力をし、その価値を引き出しているということが大事です。

一方で、私たちが分析を行う際に、必ずしも特別なデータを必要とするかというと、そうではありません。よくある数字からもさまざまな発見をすることができます。

みなさんの企業にある「ありふれた」データを的確に組み合わせ、仮説検証を行ったり、意思決定の助けになるような視座を提供することはできています。こういったことがデータ分析の使命と言うことができると思います。

データの価値は、裏付けされた答えから導き出されたアクションが、何らかの成果を納めたときにはじめて生じるもの。保存されているだけで光りを放つ「何か特別なデータ」は、どこにも存在しません。

たとえば、分析に分析を重ね、満を持して立ち上げた新規ビジネスが多くのユーザーに支持されたとか、事前の想定にはなかったリスクが見つかった結果、無駄な投資を回避できたりといった成果を得たとき、はじめてそのデータに価値があると言えるのです。

つまり、競合他社が持っていない秘密のデータが何テラバイトあったとしても、使われなければ、その価値は未確定だということになります。データ量こそ少なく多少網羅性が低くても、分析によって得た示唆がポジティブな結果を引き出したなら、そちらのほうがはるかに利用価値の高いデータと言えます。

人が意思や意図を持って扱い、成果が伴ってこそデータに価値が生じるのです。私たちグルーヴノーツでは、まさにこの、データに価値を与えられる人を育てることに焦点を当てた研修として、「Data Discovery Workshop(データディスカバリーワークショップ)」を企業向けに提供しています。データは特定の人だけが扱えばいいというものでもありません。たいがいにおいて、データを持つ人はデータだけ、課題を持つ人は課題にだけしか、目を向けておらず、データと課題が混じり合わないことも問題です。

まわりにあるデータから何が浮かび上がってくるかを探索し、また、やりたいことに必要なデータにはどんなものがあるか考えてみる。思考の切り口を循環させ、考える癖をつけていくことが大切なのです。

まわりにあるデータから何が浮かび上がってくるかを探索すること|データ分析で成果を挙げる

分析結果が成果につながらないなら、検討プロセスを疑うべき

「必要なデータはあるし、分析のために活用もしている。それなのになかなか目に見える成果が出ない」という方もいらっしゃいます。むろん原因はいろいろあるでしょう。

よくある原因として挙げられるのは、データの集め方、可視化、共有の方法にまつわる問題です。

たとえば、あなたはある販促上の問題点を定例会議に上げるため、販売報告書などから細かな数字を集めています。それをいつものように表計算ソフトに貼り付け、クロス集計分析し、問題点を抽出。それをもとに解決に向けたプランをつくり会議に持参したところ、あなたのプレゼンを聞いた上司はあなたにこう言います。

「A事業部の課題はだいたい把握できた。仮説も提案内容も申し分ない。ただ、B事業部の状況はどうなっている?その内容と比較してみないと評価できない」

そう言われたあなたは、おそらく戸惑うはずです。なぜならB事業部の数字を知る立場にはないからです。おそらくあなたは、きっとこう言うでしょう。

「数字を調べて出直してきます……」

必要なデータが手元にないのですから、上司の意見に反論することも叶いません。出直す以外に選択肢はなさそうです。

翌日、改めて他部署の責任者に頭を下げてデータ提供を願い出て、集計、分析に時間を費やしているうちに1週間、2週間はあっという間に経ってしまいます。そしてようやく準備を整え臨んだ会議でも、同じようなことが起こり、やり直すはめになったとしたら、どんなに忍耐強い人でも、心が折れてしまうでしょう。

あなた自身にこのような経験はなかったとしても、似たような話を聞く機会は少なくありません。きっとおそらくいまも日本のどこかで、似たような悲劇が起こっているはずです。

こうした状況を見て、上司の理解力不足、部下の準備不足と切り捨てるのは簡単です。しかし、もし各部署に点在している経営指標が1つのダッシュボード上に集約されていたらどうでしょう。1つの画面を見ながら出所の確かなデータを引き出して議論ができる環境があれば、おそらくあなたは、その場で上司の問いに答えることができ、数週間にわたって時間を浪費することなく決済を得られたかも知れません。

画面を見ながら出所の確かなデータを引き出して議論を|データ分析で成果を挙げる

仮に、変化の緩やかな牧歌的な時代であれば、こうした経験も一回り大きく成長するための試練として受け止めることもできたかも知れませんが、いまは時代が違います。ドラスティックな変化がいつ何時起こるかわからない時代です。

出だしでつまずいたら、あとになって、さらに大きな問題として跳ね返ってくる可能性も否定できません。しかし、それよりももっと致命的なことがあります。無駄な労力を強いることで、情熱がある人材のやる気を削いでしまうことです。こうしたことをいつまでも繰り返していたら、どんな結果が待ち構えているかは火を見るより明らかでしょう。

小さな成功の積み重ねが大事。身近な業務の見直しからはじめよう

「だからといって、そんなデータ分析環境なんてすぐにはできない」と言いたくなる気持ちもわかります。

確かに今日、明日解決できる話ではないかも知れません。ただ、データ活用で成功している企業の多くも、その多くは着実に小さな成功を積み上げ、 少しずつデータドリブンな環境を整えていきました。

しかし、その道のりは平坦ではありません。これまで頼りにしてきた経験や勘よりも、日々生成されるデータをもとに、確度の高い意思決定しようと言うと、数字ばかりを重視する非人間的な「改革」が行われるのではないかと懸念する人たちもいるからです。

こうした不安を払拭するには、どんなに小さな成果でも構いません。データ分析によって導いた解決策が功を奏し、仕事が楽になったという人を増やしていくことが近道です。解析ツールを先行して導入するというのも1つの手ですが、並行して支持者を増やしていく試みは欠かせません。それがないと、データを共通言語に語り合う文化が根付かず、1つ、2つ課題を解決したけれど、あとが続かないということになってしまいます。

それは非常にもったいないことです。

人目を惹く大きな成功を目指したくなる気持ちはよくわかります。しかし、本来のデータマネジメントを考えていくと、そこにたどり着くには中長期目標が必要です。データガバナンス、データ統合、標準化などと到達するまでには数年を要するでしょう。それまで何の成果もなければ、おそらくモチベーションが保てません。データ分析は企業が続く限り継続すべき活動です。数週間、数か月で答えが出るような、小さな成功体験を積み上げていくくことも必要です。

まずは慣れ親しんだ業務を見直してみるところからはじめましょう。どんな企業にも、手間の割には効果が見えない業務や、何のためにやる必要があるかわからない不明瞭な業務はあるはずです。続ける意義がないことを証明したうえで、より効率的で意味のある業務に置き換えられたら、きっと喜んでくれる人が、今後のあなたの活動を支えてくれるに違いありません。

昨今は新型コロナウイルスによって、社会情勢が大きく変化しました。この変化にどのように対応するかも大きなテーマです。自社が変わらないと思っていても、社会が変わっていってしまう状況を正しく把握して対応していかないといけません。まずは、大がかりな仕組みも予算も特別なデータも不要です。自説の仮説の正しさを証明するだけなら、タスクの消化に要した手数や時間、人数と成果の可視化で事足ります。

大事なのは火付け役となることを恐れず、勇気を持って1歩前に踏み出すこと。

特定の人に限定されるものではなく、誰でも必要に応じて同じデータを参照しながら、議論したり、仮説検証を行える環境、そしてそれが当たり前に行われる文化を育むことが欠かせません。

「データドリブンな企業」とは、社内における「データの民主化」とほぼ同じ意味だと私は思います。

環境も文化も整わないなか、自ら進んで事態を打開するために奮闘できる人材は限られています。あなた自身がそれに該当するなら言うことはないですし、もし同僚や部下にデータ活用に熱意を持つ人物がいたら、ぜひ励まし支えてあげてください。

データドリブンな文化を社内に根付かせようと奮闘する、勇敢な「ファーストペンギン」たちを応援するのも私たちグルーヴノーツの務め。一緒に小さな灯火を大きな炎へと変えていきましょう。

データドリブンな文化を社内に根付かせよう|データ分析で成果を挙げる

構成:武田敏則(グレタケ)