2020年から日本でもプログラミングが義務教育に組み込まれる。つまり、これからの時代、ITテクノロジーを学ぶことは必要不可欠な能力なのだ。
これは未来のプログラマーを育てるためだけの教育ではない。さまざまなテクノロジーが、どのように社会に作用するのか、そして目の前に立ちはだかる課題をどのように解決する可能性を持つのかを正しく理解しておくことが重要であることを示している。
「テクノロジーと遊ぶアフタースクール」をコンセプトに学童保育サービス「TECH PARK」を運営するグルーヴノーツは、子供向けにAIを学べるオンラインプログラム「Scratch で使える拡張 AI ブロック」を開発した。
オリジナルで企画・作成したプログラムは画像認識のAIと、ビジュアルプログラミング言語「Scratch」を使った本格的な内容で、開発段階ではTECH PARKでプログラミングを学んだ卒業生からのフィードバックも反映している。子どもたちと向き合うなかで生まれたカリキュラムといえよう。
このプログラムを小学校高学年に教える授業が2019年6月から7月にかけて加藤学園暁秀初等学校で開催された。AIに初めて触れた子どもたちの様子のレポートとあわせて、プログラム開発の背景について紹介したい。
AIはなんでもできるもの?
授業は全7回。AIを実用的なものにするための機械学習とは何かを紹介した動画を視聴することから始まる。
自分たちの生活を支えるテクノロジーが、どのように機能しているのか。そして、それはどのように自分たちで使いこなせば良いのかを教える。――TECH PARKを通じて、1000人以上の子どもたちと関わってきたグルーヴノーツのこだわりが感じられる内容だ。
AIや画像認識や機械学習の概念を学ぶと、Scratchでのコーディング体験に移る。最終目標は画像認識機能付きのセルフレジを開発するという内容だ。
取材した日は三日目の授業で、PCカメラを使った画像認識とScratchでのコーディングを行っていた。
初回の授業開始前にAIってなんだろうと問いかけると「ドラえもんみたいなもの」など、何でもできるイメージを持っていた児童たちも、授業が進むにつれ「得意・不得意がある」「決まったことをやるもの」と理解、じゃんけんのグー、チョキ、パーの手を認識させることで画像認識の仕組みを学んだ。
授業の中で開発する画像認識機能付きのレジは、日本国内でも実際に導入が始まっているが、制御にScratchを採用していることを除けば実社会でも使われているものと全く変わりはない。
PCカメラを使い、鉛筆など身近なものを角度や向きを変えて撮影、アップロードを繰り返して、機械学習用のデータを蓄積させる。AIに撮影対象を学習させ、Scratchで条件分岐を用いて、自分で考えたセリフを言わせるまでが、この日のゴールだ。
児童たちは新しいテクノロジーを身近な言葉と環境で学び、実社会とのつながりのあるアウトプットをすることで、暮らしのなかでAIがどのように機能するものなのかを知る。
全7回の授業の最終目標は学園祭で使用するAI搭載レジを開発すること。一足先の未来を自ら学べる今回のプログラムは今後も学校での実証実験を重ねながらアップデートした後、基本機能は無料で利用できるだけでなく、有償の機能追加やサポートも同時に行っている。
グルーヴノーツの代表取締役会長で、テクノロジー教育に特化したアフタースクール「TECH PARK」を運営する佐々木久美子によれば、
「私たちが考えていることやプロダクトをよく知る、Googleのご担当者からGrow with Googleの紹介を受けたのがきっかけです。」
開発にはGoogleが開発した機械学習用Javascriptライブラリ「TensorFlow.js」を採用している。
これにより、機械学習モデルのデータ収集やトレーニング、推定利用などのプロセスがWebブラウザ上だけで実行できる。
小学生でも迷うことなく操作できるよう、UI開発にも工夫をこらしている。
画面上で操作するボタンは視覚的に判断できるよう非言語UIを採用し、実際に小学生を対象にユーザーテストを行いながら、必要な機能の検証と実装のサイクルを重ねた。
トレーニング用のツールも機能を絞り簡単に扱えるようにすることで、子どもたちに学んでほしい画像認識の仕組や手順、プログラミングに集中的に時間を割けるようにしている。
子どもが学ぶことを通じて、大人も学んでほしい
現在の学校教育で得られるものと、実社会に出た時に求められるものが乖離しているのではないか。教育現場におけるテクノロジーと、社会で求められるテクノロジーに対するリテラシーとの間にある隔たりを埋めるべく、グルーヴノーツはTECH PARKを立ち上げた。
その思いは今も変わらない。寧ろ国内外の教育機関との交流や、さまざまなバックグラウンドを持つ子どもと保護者と関わっていくなかで、より深まっているという。佐々木は今回のプログラムを通じて、子どもだけでなく保護者や教師にもAIを知るきっかけを提供したいと考えている。
「目まぐるしく変化し、将来の予測がしにくい社会になっている。そんな状況で教える側の大人が将来必要となるテクノロジーを理解しないまま、子どもに教え、社会に送り出すという仕組みには無理があります。子どもを取り囲む大人自身も、これからの社会に必要な知識と技術を絶えず身に着けてほしいのです」
今回のプログラムに込められた「新しいことを知るハードルを下げたい」というコンセプトは、グルーヴノーツの哲学にもつながっていると佐々木はサービスに込めた真意を語る。
「自分の目の前にある課題を一つでも多く解決できる社会にしたいというのは、グルーヴノーツが手掛けるサービスの根幹にある思いです。機械学習の知識がなくても、誰でも簡単にさまざまなデータの集計や分析、分類、予測ができるMAGELLAN BLOCKSであったり、テクノロジーを学ぶことで、大人になる前から課題を解決する方法を身につけるTECH PARKであったり、根本にあるものは共通しています」
自ら手を動かし、AIとは何かを学ぶことで、「人間の仕事を奪うAI」ではなく、「人間の課題を解決するツールとしてのAI」を知る。そうして、身の回りにある課題を解決する力を身に着けてほしい。グルーヴノーツが目指すのは、ひとりひとりが目の前の課題を自分自身で乗り越えていける社会だ。