左:株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕
右:株式会社プラネット 代表取締役社長 兼 執行役員社長 田上正勝氏

データをいかに活用するべきか。多くの企業の関心が集まっています。今回お迎えする田上正勝氏が代表を務めるプラネットは、1985年に大手消費財メーカー各社の出資より設立された企業。約1,400社にのぼる、化粧品、日用品、ペットフード・ペット用品、OTC医薬品などを取り扱うメーカーや卸売業に対し、業界VAN(Value Added Network)を提供。膨大な企業間商取引データをEDI(Electronic Data Interchange)プラットフォームで支えています。「データを制する者がビジネスを制する」といわれる現代。長年、消費財流通の情報インフラを構築してきた同社は、これからのデータ活用についてどのように捉えているのでしょうか。田上氏にお話を伺いました。

メーカーはコロナ禍で需要予測の難しさを痛感

最首 田上さんと最初にお会いしたのは8年ぐらい前でしたね。

田上氏(以下、敬称略) よく覚えています。プラネットが運営しているEDIプラットフォームには毎日大量のデータが流れているのですが、そのトランザクション処理を効率的に行うにはどうしたらいいか、相談に伺ったのが最初でした。

最首 確かそのときもお話したかと思いますが、プラネットさんが創業された1985年は、私が社会人になったのは同じ年で、一時、プラネットさんは私にとって有力な就職先候補の1つでした。そういう意味で、御社とも田上さんとも遠からぬご縁を感じているんです。

田上 そうおっしゃっていましたね。

株式会社プラネット 田上正勝氏×株式会社グルーヴノーツ 最首英裕 対談インタビュー
株式会社プラネット 代表取締役社長 兼 執行役員社長 田上正勝

【プロフィール】1964年、兵庫県生まれ。1988年 関西大学法学部を卒業後、システムコンサルティング会社を経て、1993年にプラネット入社。システム管理部、営業推進部を経て、ネットワーク企画部で16年、企画開発業務に従事。業際統一伝送フォーマット、業界イントラネット、商品データベース、バイヤーズネット®などの業界インフラシステムの企画・開発を担当する。2006年に執行役員、2008年に取締役となり、常務取締役を経て2012年より現職。

最首 結果的に、私はプラネットさんと同じ情報流通事業を手掛けていた別の会社に入社しましたが、その会社で最終的に事業責任者を任せてもらったこともあって、今でもEDI(Electronic Data Interchange)や業界VAN(Value Added Network)に対して、個人的な思い入れがあります。

田上 1985年は電気事業通信法が改正され、通信の自由化が始まった年でした。VAN事業が解禁され、パケット交換やEDIデータのフォーマット変換など、通信回線を利用したさまざまなネットワークサービスが続々と生まれ始めた頃。当時の最首さんもその可能性や将来性に惹かれたのでしょうね。

最首 ええ。多くのデータの集まるところには大きなビジネスチャンスがあると思っていましたし、それは今も変わりません。とくにプラネットさんは当時から現在まで、35年にもわたり、私たちの生活に身近な化粧品や日用品、大衆薬などの分野に特化したEDIデータの流通を担っていらっしゃいます。これまで、市場の変化を目の当たりにされてきたと思いますが、昨今のコロナ禍がもたらした変化についてはどのように見ていらっしゃいますか?

田上 新型コロナウイルス感染防止対策でマスクや消毒液などの衛生用品の品切れが続いたのはご承知のとおりです。巣ごもり需要で台所洗剤などのキッチン関連商品などもかなり売れましたし、インバウンド需要を補って余りある売上を確保したメーカーもいらっしゃいました。しかしその一方で、メイクアップ化粧品やトラベル関連用品などは売れなくなり、店頭の変化に危機感を強めたメーカーも少なくないと聞いています。

株式会社プラネット 田上正勝氏×株式会社グルーヴノーツ 最首英裕 対談インタビュー:店頭の変化に危機感を強めたメーカー

最首 どのような危機感でしょうか?

田上 国産のマスクや消毒液が店頭から消えてから、馴染みのない企業の製品が市場に溢れたのを覚えていらっしゃると思います。消費者も「無いと困る」ので、割高で品質保証が心配な商品でもどんどん買っていました。危機感を強めたメーカーは、この現象にブランド離れの予兆を見たのだと思います。自社製品が他社製品に取って代わるのではないか、とショックを受けたメーカーの営業担当者のお話を伺いました。

最首 需要予測の難しさを感じさせるエピソードですね。

田上 そう思います。そもそも、なぜ衛生用品が品薄になったのかといえば、2000年代初頭に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の際、流行が長引くと予測して増産したマスクが売れず、数年にわたって余剰在庫に苦しんだメーカーが多かったことも要因の一つとだといわれています。今回は原料不足もあり、増産には慎重になられたメーカーも少なくなかったようです。

最首 生産のみならず、物流も大きな影響を受けていますよね。

田上 はい。ただ、コロナ禍以前は、オリンピック需要を見込んだ建設ラッシュなどの影響でトラック不足、ドライバー不足が深刻化し「物流危機」が叫ばれ、配送の効率化と物流コストの削減が、多くのメーカーと卸売業の関心事でした。弊社では「ロジスティクスEDI概要書」を作成し、物流分野でもお役に立とうと考えていました。しかしコロナ禍の影響で、建築資材の物流需要が落ち込み、一時的に物流危機が解消されたため、変革への気運が一段落してしまいました。その点が将来に禍根を残さないか、気がかりではあります。

最首 問題を放置していたら、いずれコロナ禍が去った後、危機が再燃するかも知れません。

田上 そうなんです。景気が戻ったからといってドライバーは急には増やせませんし、彼らに長時間労働を強いることもできません。それにCO2削減も喫緊の課題となっています。需要が落ち着いているいまこそ、将来に向け効率的な物流を実現する方法を考えるべきなのです。今後の情勢が見通しにくい状況ですが引き続き取り組みを進めてまいります。

最首 新型コロナ感染拡大の第一波が明けた6月あたりを境に、実は私たちグルーヴノーツに対する引き合いが増えています。変化に対して保守的な企業も少なくない一方で、変化に対する感度が高まっている企業も増えているように感じているのですが、田上さんはどのように受け止めていらっしゃいますか?

田上 「変化」という切り口で申し上げると、以前から業務の改革に積極的な卸売業はもちろんですが、比較的安定志向が強いメーカーに、DX(デジタルトランスフォーメーション)部門が続々と新設されているのが印象的です。日々の業務に忙しい現場と成長戦略を模索する経営層との間に、温度感があるという話を聞くこともありますが、皆さん「このままでは立ちいかなくなる」という危機感をお持ちなのは間違いないと思います。

最首 もしかすると、今後10年かけて変えていこうと思っていたら、期せずして流行した新型コロナウイルスのせいで、一足飛びに変わらざるを得ない状況がきてしまい、戸惑っているということなのかも知れませんね。

田上 そう思います。とはいえ、企業にとって変化の捉え方はさまざまです。今回の件で多くの企業がテレワークを導入しましたが、コロナ禍が去ったら元に戻したいと考える経営者もいれば、リモートワークを継続する経営者もいます。コロナを経験して変えるものと変えないものが、企業ごとに変わっていくと見ています。

最首 今は人の移動が制限され、総じて景気は落ち込んでいる印象がありますが、その内訳をよく見ていくと、法人需要から個人需要、観光や外食需要から巣ごもり需要へとシフトしただけで、需要自体はそれほど落ちていないというデータも見受けられます。地方と首都圏では受けているダメージの大きさもずいぶん違うようです。新型コロナウイルスによって生じた生活様式の変化が、東京一極集中のような過剰な偏りが是正される契機になればいいと考えるのですが、どう思われますか?

田上 そう思います。これを機に、どこにいても快適な暮らし方や働き方が可能になるといいですよね。そのためにはデータによって、目の前であたりまえのように起こっている現象を可視化、分析し、将来のあるべき姿を模索する手がかりにすべきなのは間違いないでしょう。

株式会社プラネット 田上正勝氏×株式会社グルーヴノーツ 最首英裕 対談インタビュー:どこにいても快適な暮らし方や働き方

プラットフォーマーとしての信頼を新たなデータビジネスへ

田上 最首さんと定期的に情報交換をさせていただいているなかで、今も心に残っている言葉があります。それは「不易流行(ふえきりゅうこう)」という言葉です。最首さんから「大切なものを絶えず維持するためには、変わり続けなければならない」というお話を伺って本当にそうだなと思いました。まさに弊社が35年以上運営している業界VANのあり方も「不易流行」という言葉がピッタリと当てはまるからです。

最首 これまでプラネットさんが滞りなくメーカーと卸売業者の間を取り持ち、EDIで流通を支えてこられたのは、税制や通信インフラ、通信プロトコル、データフォーマットが大きく変わる潮目を見極め、準備を整え、変化に対応してこられたわけですからね。

田上 ええ。弊社とお取引のあるお客様は、現在1,400社以上。新たな仕組みやサービスをすべてのお客様に利用いただくまでには、おおよそ5年ほどの期間を要します。外から見ると代わり映えのしない企業に見えるかも知れませんが、実際は常に変化し続けているんです。

最首 プラネットさんのような、中立的な立場のプラットフォーマーの存在が、変化に伴う衝撃を和らげる緩衝材のような役割を果たしているのかも知れませんね。そうしたハブ役を長年にわたって務めているからこそ、これから重要性を増すデータ活用の分野においても、御社が重要な地位を占めるはずだと考えているんですが、いかがですか?

田上 ありがとうございます。私たちがこれまで提供してきたサービスは、EDIデータの安全かつ円滑な流通基盤を提供することにあり、データの中身に関与することはありませんでした。しかし、2006年からはお客様の要請に応じて販売データを集計・加工する「販売レポートサービス」を開始し、5〜6年程前からはグルーヴノーツさんのお力をお借りして、高速かつ精度の高いレポートを提供できるようになりました。今後は販売データに留まらず、業界全体の底上げになるようなデータ活用のあり方をお客様に提示できればと考えています。

最首 最近では、私たちグルーヴノーツのエンジニアとプラネットさんのイノベーション推進部の皆さんが協力して、AIや量子コンピューティングの活用について模索していますよね。たとえば、メーカーと卸売業間での新たな情報連携モデルを提供できるのではないかと思っています。AIの需要予測によって在庫管理や発注の適正化などが図れれば、環境負荷低減にもつながります。

田上 はい。普段は黒子に徹している私たちですが、イノベーション推進部が窓口となって今後、お客様に対して、有益なデータサービスが提供できないか、グルーヴノーツさんの技術力をお借りして実証実験を重ねているところです。グルーヴノーツさんは、精緻な需要予測を実現するAIと、組合せ最適化問題に特化した量子コンピュータといった先進技術をお持ちです。何より、お客様の言葉を理解し、業務視点で技術の活用を考えられるコンサルタントやエンジニアが集まっているのは強いですね。現場部門も必ずいいアウトプットを出してもらえると喜んでいます。テクノロジーパートナーとして非常に心強い存在です。

最首 ありがとうございます。これまでさまざまな分野でイノベーティブな取り組みをなさっている企業の方々とお話を重ねてきて感じるのは、自社の存在意義を明確に認識されている企業は変化に強いということです。御社に消費財分野におけるVAN事業を手掛けてこられた信頼や実績があるからこそ、こうしたサービスを担う資格があるといえそうです。一連の取り組みは、プラネットさんご自身が、自社の存在意義をはっきりと認識されているからこそできるものなのだと感じます。

株式会社プラネット 田上正勝氏×株式会社グルーヴノーツ 最首英裕 対談インタビュー:存在意義
株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長 最首英裕

田上 事実、同業他社同士であれば、利害が衝突してなかなか前に進まないことでも、中立的な立場にある私たちが間に入ることで、可能になることはたくさんあります。実際、弊社が介在することによって、非競争領域すなわち協調領域ではお互いに協力しましょうという声にも耳を傾けていただきやすくなります。こうした利点を生かして近い将来、業界全体、ひいては社会貢献につながるような成果を出したいと願っています。だからこそ、グルーヴノーツさんには期待しているんです。

最首 そういっていただけて光栄です。私たちも、企業や業界のさまざまな課題を解くなかで、データ分析や現象の可視化、人やモノの最適配置の面で、お力添えできそうなアプローチがどんどん増えています。実証実験を超えた成果を出せるよう、協力させていただくつもりです。

プログラミングではなく、数式で本質的な課題解決に迫る

最首 私は長年ソフトウェア開発に携わっているのですが、確実に昔と今とではやっていることが違うと感じることがあります。

田上 なるほど。それはどのような違いですか?

最首 以前はお客様の希望を要件にまとめて、それを実現するプログラムを物語のように書き上げてシステムに実装することを生業にしていました。でも今は違います。お客様からヒアリングした内容をいかに数式化してサービスに実装するか、どの数式とどの数式を組み合わせれば課題が解けるのかを常に考えているからです。なぜそうしたアプローチを取るようになったかといえば、プログラミングではなく、パラメータと物理現象で、組合せ最適化問題を解く量子アニーリング方式の量子コンピュータを活用するようになったからです。課題の本質に迫るために必要不可欠なアプローチだったとはいえ、今にして思えば、量子コンピュータと出会ったことによって、自分たちが求めているものが明らかになった気がします。

田上 斬新なアプローチですね。私と最首さんで共通する価値観があるとすれば、それは無駄な仕組みを作らず、本質的な解決につながる取り組みを追求する姿勢にあるのではないかと感じています。違いがあるとすれば、私たちはプラットフォーマーとしての実務とお客様や社会の動向に関心が強く、グルーヴノーツさんは、AIや量子コンピュータなどの先端テクノロジーを軸に、私たちよりも少し先の未来を見ていらっしゃることかも知れません。

最首 真のDXを実現するためには、事実に基づいて経営の指針を決めるスタンスが重要です。その礎がデータにあるとすれば、プラネットさんに託されている膨大なデータには大きな価値があることは間違いありません。私たちにはそのデータを活用するためのアイデアと技術がある。協力できる余地は多そうです。

株式会社プラネット 田上正勝氏×株式会社グルーヴノーツ 最首英裕 対談インタビュー:膨大なデータには大きな価値がある

田上 私個人としては、データの安全な流通基盤を担うプラットフォーム事業と、一定のルールの下で蓄積されたデータを活用する事業は両立できると考えています。データの適切な活用によって、新しいビジネス提案を一緒に作っていけると思います。

最首 同感です。これまでに得た実証実験での成果を生かし、プラネットさんとともにイノベーションのロードマップを一緒に描ければと思います。

田上 コロナ禍もさることながら、令和時代は平成時代よりも変化の大きい時代になりそうです。今後も不易流行を念頭に置きつつ、メーカーや卸売業さんに寄り添うサービスを提供していきたいと思っています。ぜひお力添えをお願いいたします。

最首 いろいろ良いアイデアがあるので期待してください。今日は長時間にわたりお時間をいただき、ありがとうございました。

田上 こちらこそ、ありがとうございました。これからますますご一緒する機会が増えることを楽しみにしています。

<グルーヴノーツとプラネットのかかわり>
グルーヴノーツは、「MAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)」基盤を活用し、プラネットがメーカー各社に提供している、「販売レポートサービス」の高速処理と省力化をサポートしています。また、プラネットのイノベーション推進部と共同で、業界全体のDX推進プロジェクトを推進。直近では、メーカー有志とも協力し、生産、物流の最適化につながるAIと量子コンピュータの有効活用について、研究と実証実験を重ね、業界標準の仕組みづくり、新サービスの可能性を模索しています。

構成:武田敏則(グレタケ)