株式会社グッデイ 代表取締役社長 柳瀬隆志氏

「家族でつくるいい一日」を理念に、ホームセンター事業を展開するグッデイ。いまや北部九州を中心に63の店舗を展開する同社ですが、そのスタートは1949年、現社長である柳瀬さんの祖父がはじめたラジオ・アマチュア無線の小さなパーツ販売店でした。それから約70年、2017年の現在に至るまで、家電販売店やドラッグストア、学習キットの開発など、時代の変化を的確に捉えながら事業を多角化。最近では、機械学習を用いた販売予測を経営にいち早く取り入れるなど、その時々に応じたテクノロジーも積極的に活用。変化することをためらわないホームセンター「グッデイ」のこれまでの歩みと、その先に見据える未来について、お話をお聞きしました。

ホームセンターってなんだろう?

- まずは、取り組まれている事業について教えてください。

柳瀬さん:グッデイは、生活雑貨や日用品、園芸用品、木材やボルトなどDIY関連の商品を販売するホームセンターです。1978年の一号店オープンから着実に店舗を増やし、現在は北部九州を中心に、63のお店を展開しています。もともとは、1949年に祖父がはじめたアマチュア無線のパーツ販売店がスタートなのですが、その後、家電販売店やドラッグストアなど事業を多角化する中で生まれたのがグッデイで、今や私たちの主力事業になっています。

- こどもの頃、私もよく父や祖父と一緒にグッデイで買い物をしていました(笑)

柳瀬さん:ありがとうございます(笑)
グッデイの理念は「家族でつくるいい一日」です。以前は、モノを販売するだけでも十分に「家族で過ごす時間」を持つきっかけを提供できていたのかなと思いますが、いまは共働きの家庭が増えて、こどもたちも塾や習い事で忙しい日々。実際に、家族で過ごす時間が短くなっているという政府の調査もあります。そんな中で「ホームセンター」も、ものを売るだけでなく、新たな価値を提供できるような挑戦をしていかなくてはいけないと思っています。
私がグッデイの事業に携わるようになったのは2008年からなのですが、その当時から常に頭にあるのは「ホームセンターってなんだろう?」という問いです。
今はコンビニもネットもあるので、日用品や生活雑貨、あるいは工具などもわざわざホームセンターに足を運ばなくても手軽に手に入ります。そういった状況下で、では「ホームセンター」は、モノ以外に何を提供すべきなのかな、と。

実際に触れて学べることの価値

- ものを売るだけでは足りない?

柳瀬さん:2008年から1年間は、店頭にたって仕事をしていたのですが、日々の業務の中でぼんやりとそのヒントが見えてきました。「ワイパーの変え方がわからない」とか「網戸の張り替え方を知りたい」とか、お店にいらっしゃるお客様に色々と質問をいただく機会があるのですが、店頭に立つ従業員は、こういった質問にきちんと応えられる知識と、実際に道具を使うスキルを持っていて、お客様は満足・納得して商品を買っていく。それはコンビニやネットでは手に入らないものだと感じました。
みんながせっかくこういうスキルを持っているんだから、もっと活かす方法はないか。もっと楽しく提供できる場所はないかと考えた結果が、ワークショップの開催やファブラボ施設の運営でした。

- 実際に体験できる場を提供しようと?

柳瀬さん:工作やDIYって実際にやってみると楽しいんですが、そのキットや道具だけが売られていても、なかなか自発的に「やってみよう」という気持ちにはなりづらいものです。
そこで、これをワークショップという形にして、道具を使うスキルをもった従業員がサポートすることで、手軽にものづくりの体験をしてもらう機会を提供しようと。特に、ファブラボには3Dプリンターやレーザーカッターなど、最新の電子工作機器を導入し、誰もが使える環境を用意しました。
そうやってものづくり体験の中で得た楽しい、面白いという気持ちが、「家族でつくるいい一日」につながっていけばいいなと思っています。そしてそれは、今後「グッデイ」が提供していくべき重要な価値のひとつになるはずです。

2008年、固定電話とFAXで業務にあたる日々。

- 3Dプリンタやレーザーカッターなど、新しいテクノロジーも積極的に導入されているんですね。

柳瀬さん:そういったイメージをもってもらえるのは大変うれしいのですが、実は、私が入社した2008年当時は、固定電話とFAXが主な連絡手段で、携帯電話もインターネットも業務には活用されていませんでした。グッデイへの入社前、私は商社に勤めていて、海外とのやり取りも多かったので、モバイル端末とインターネットは必需品でした。むしろ、それさえあればどこにいても仕事ができるという状況になれていたので、少し戸惑いはありました(笑)

- そこから急速に情報インフラを整えた?

柳瀬さん:物流の方にも大きくテコ入れしたい部分があったので、まずはそこから手を付けて、物流センターの設立が落ち着いた2015年4月から、本格的に情報システムの整備をはじめました。これまでは、帳票1つとっても営業部の依頼から1ヶ月近くかかってようやくできるという状況だったのですが、クラウド上に構築しなおした DWH に Tableau をつなぐことで、見たい数字をその場ですぐに可視化、指標として追いかけることができるようになりました。
コミュニケーションツールも、Google の G suite を導入。はじめは使い方に戸惑うかもと考えていた部分もありましたが、もともと DIY や工作が好きな従業員ばかりなので、念の為に残しておいた予定を書き込むホワイトボードはその日のうちにいらなくなりました(笑)
今では当然のように、ハングアウトや Google ドライブを通じて、各店舗の状況がリアルタイムに共有されています。
最近では、機械学習を使って業務をどのように改善できるか試行錯誤しています。

試してみないと、面白いかどうかわからない。

- 十分なITインフラが整っていなかった2015年から見直しを始めて、たった2年で、今はもう機械学習。ものすごいスピード感ですね(笑)

柳瀬さん:今グッデイでは、8万点以上の商品を取り扱っているのですが、そのうちのほとんどは、1商品あたり各店舗に 2〜3個の在庫しか置かれていない状況です。こういった “振れ幅” の小さな商品は、在庫がいくつ以下になったら自動発注するというフローで十分対応できるのですが、すだれや扇風機、使い捨てカイロなど、季節モノの商品なんかは非常に振れ幅が大きい。
つまり、そこに商機が眠っているという事でもあるのですが、それぞれの従業員の経験則で発注量を決めてしまうと、どうしても量が多すぎたり少なすぎたりして、せっかくの商機を逃してしまう。ここで機械学習を使ってより精確な販売数を予測できれば、過不足のない発注ができるのではという発想です。
実際に「園芸用の殺虫剤」を使った売上予測の実験では、402個の予測に対して、413の実売と、およそ98%の精度が得られました。

- もともと機械学習に関しての知識をお持ちだったのでしょうか?

柳瀬さん:ありません(笑)それこそ、知識がなくても機械学習を簡単に使えるというグルーヴノーツの 「MAGELLAN BLOCKS(マゼランブロックス)」というツールがあったからこそ、試してみようという気になりました。
実際に、短期間で成果がでましたし、また、その精度も非常に高いものでした。今後は、予測対象の商品を増やして、これまで人の経験則に頼っていた部分を置き換えていければと考えています。

自分たちでDIYしつづけること。

- 今後はどのような展開をお考えですか?

柳瀬さん:私たち自身が、まずは新しいテクノロジーと向き合い、そこで試行錯誤を繰り返すことで得られた経験を持って、ほんとうの意味で、ものづくりやDIYの面白さをお客様に届けていければと考えています。
あたらしいテクノロジーが出てくると、どうしてもそのテクノロジー自体の話に終始してしまい、ではそれを使うとどのような効果があるのか?という疑問に対して、明瞭な答えを出せるケースはまれです。なにか、いままでにない事ができそうだけど、具体的にどのようなリターンが得られるのかわからない。
ここに1つの発想の転換が必要だと思っています。新しいテクノロジーを、“サービス”として受け止めてしまうと、具体的なリターンを約束してくれる事こそが経営判断としてはもっとも重要な事の1つになりますが、“具体的なリターンを約束してくれるテクノロジー”は、もはや“新たな可能性を見せてくれるテクノロジー”ではなくなってしまいます。
新しいテクノロジーを、1つの“ツール”あるいは“道具”として捉えることで、どのように使うか?どう使えば面白いのか?という発想がうまれて、それこそが自社の強みや味わい、あるいは他社との違いにつながっていく。リターンが約束されたテクノロジーでは、効率化する事はできても、独自性はうまれません。私たちが追求していきたいともっているのはまさにその点です。
グッデイと一緒に、こういった“独自のおもしろさ”を生み出すための実験に参加してくれるパートナーさまを募集しています(笑)